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◆避けては通れない「介護」の話(80点)

 二人きりで仲睦まじく暮らす老夫婦のかたわれが、半身まひとなってしまった。二人は話し合った結果、自宅での介護生活を選択する。その後の静かな暮らしぶりを、細部まで丁寧に描いた映画──。
 さて、あなたはそんな映画を見たいと思うだろうか。まず思うまい。「そんな退屈で、人畜無害な老人映画なんて興味はない」。そんな風に思ったなら、この記事を最後まで読んでみてほしい。
 「愛、アムール」(12年、仏、独、オーストリア)は、あらすじだけ書けばまさにそんな作品だが、その人間描写の深さ、考察の鋭い切れ味ときたら只者ではない。フランス語で撮られた外国映画だというのに、あの排外的なアカデミー賞の作品賞(外国語映画賞でなく、その年の最高峰を決める方の賞だ)にノミネートされた実力は伊達ではない(結果は5部門ノミネート、外国語映画賞を受賞)。なにしろミヒャエル・ハネケ監督は本作で、カンヌ国際映画祭二作連続最高賞(パルムドール)を獲得する快挙を成し遂げた。その衝撃作がついにお目見えとなる。
 パリの高級アパートで暮らす夫婦ジョルジュ(ジャン=ルイ・トランティニャン)とアンヌ(エマニュエル・リヴァ)は、ともに音楽教師だったがいまは老後をのんびりと過ごしている。ところがある教え子のコンサートの帰りにアンヌが倒れ病院に搬送、そのまま半身まひの後遺症が残ってしまう。彼女の希望でジョルジュが中心となっての自宅介護を始めるが、それは苦難の始まりに過ぎなかった。
 愛し合う二人の最後の日々を描いた、とみることもできる奥深いドラマだ。確かに映画のほとんどは夫が妻を淡々と介護する場面ばかりで中だるみもみられるが、本来支えとなってくれるはずの子供たちとの決定的な認識のずれが明らかになってからの終盤の緊張感は尋常ではない。もし、家族至上主義の生ぬるい近年のアメリカ映画に慣れた人がこれを見たら、ショックですぐには立ち上がれまい。
 それほどに本作が語るテーマは真剣そのもの。偽善に背を向ける勇気と、想像もできなかった孤独な愛の最高到達点を描いて見せた点で、ハネケ監督には最大限の賛辞を贈りたい。二人がたどりついたその高みは、私などにとっては見ただけで圧倒される程のものであった。
 両親のケースをモデルにこのドラマを作り上げたこの監督の才能たるや、外国語映画賞受賞でお茶を濁した今年のアカデミー賞すべてが陳腐に思えてしまうほどだ。

■作品データ
愛、アムール
Amour
2013年3月9日、東京:Bunkamura ル・シネマ、銀座テアトルシネマ他全国ロードショー
2012年/フランス/カラー/125分/配給:ロングライド

スタッフ
監督:ミヒャエル・ハネケ
脚本:ミヒャエル・ハネケ
撮影:ダリウス・コンジ
編集:ナディン・ミュズ、モニカ・ヴィッリ

キャスト
イザベル・ユペール
ジャン=ルイ・トランティニャン
エマニュエル・リヴ
ウィリアム・シメル
リタ・ブランコ
ローラン・カペリュート






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