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激映画批評

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◆迷える大人たちのドラマ(75点)

 「論語」には、四十にして惑わず、五十にして天命を知る、とあるが、実際なかなかそうはいかない。孔子と違っていくつになっても迷い、煩悩に振り回されるのが凡人の人生だ。
「草原の椅子」(日本、139分)は、そうした迷いだらけの中年たちのドラマ。宮本輝が阪神大震災後に長い旅に出て執筆したとされる小説を、「聯合艦隊司令長官 山本五十六 -太平洋戦争70年目の真実-」(11年)、「八日目の蝉」(11年)の成島出監督が映画化したもの。
主人公はカメラメーカーの営業局次長として働く中年サラリーマン(佐藤浩市)。もう50を過ぎているが、20歳の娘が男といるのを街で目撃して、不安と嫉妬で思わずつけていってしまうようなチャーミングなところのある男だ。
真面目だがどこか不器用な彼は、この物語の中で3つの出会いを体験する。一つは取引先のカメラ店社長(西村雅彦)と、公私を超えた奇妙な友人として。ひとつは雨のタクシー車内から偶然目撃して一目ぼれした骨董店の美人オーナー(吉瀬美智子)、そして育児放棄の母親のせいで言葉を失った4歳の少年。
主人公は見た目は頑固者のこわもてだが基本的に人がいい男なので、何かを頼まれると断れない。結果、少年の面倒をする羽目になるのだが、この展開を軸に3つの出会いが絡み合い、どこかモヤモヤと迷いの渦中にあったそれぞれの人生が明確な指針を取り戻すまでが描かれる。
この映画の優れたところは、古来からの邦画ドラマの美点である「間」の取り方がうまいという一点に尽きる。たとえば主人公が骨董店で、オーナーの気を引こうとスケベ心を出して思わず値札を見ず食器を買う場面がある。値段を知って絶句するその一瞬の「間」。その後自宅に戻り、そこに庶民の味たるコロッケを乗せ寂しい食事をするわけだが、そこで器につかぬようしょぼしょぼとソースをかけ始める「間」。どちらもわずかな、しかしセンスが問われる演出だがこの監督は適正なそれを行い、ほほえましい笑いを生み出している。そうした場面を積み重ねることで、観客の主人公へのシンクロ度が高まり、最後の彼の選択にも拍手を送りたくなるわけだ。
ドラマの構築としては基礎中の基礎だが、これができているといないでは大違い。劇中の登場人物同様、中年から熟年に位置する男性たちに、なにがしかのインスピレーションを与えてくれる静かな佳作と評価する。

■作品データ
草原の椅子
2013年 2月23日(土)公開

スタッフ
原作:宮本輝「草原の椅子」(幻冬舎文庫・新潮文庫刊)
脚本:加藤正人、奥寺佐渡子、真辺克彦、多和田久美、成島出
監督:成島出
エグゼクティブプロデューサー:原正人
制作/『草原の椅子』製作委員会  東映 東映ビデオ
配給:東映

キャスト
吉瀬美智子
佐藤浩市
西村雅彦
貞光奏風






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