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激映画批評

今月のオススメ


若者を連れてぜひ(70点)

 「最近、映画が面白くない、とくに大人が見るものがない」と嘆く往年の映画ファン。「面白い映画作ったって、どうせ忙しいとか言って見に来ないでしょ」と(心で)言い返す映画業界人。そんな構図が定着して久しいが、いち批評家から言わせてもらえば「いい映画があっても十分宣伝できず浸透しないのが問題」となる。これだけ情報網が発達しても、あるいはその弊害か、目当ての情報に到達できる確率はどんどん減っている。
 その原因の一つは映画紹介者としての自らの力不足にもあるわけで恐縮なのだが、少なくとも今回は「あなたへ」を紹介できたことで、罪滅ぼしの足しにはなるかと思っている。
 言わずと知れた名優・高倉健6年ぶりの映画出演作。『鉄道員(ぽっぽや)』(99年)、『ホタル』(01年)、『夜叉』(85年)などで知られる降旗康男監督との黄金コンビとしては20本目となる。うるさ型のベテラン映画ファンでも、功績あるこの二人の最新作となれば興味が沸くだろう。
 今回健さんは北陸の刑務所の指導技官役で、先日亡くなった妻(田中裕子)から届いた手紙を見て何かを思い立ち、彼女と使うはずだった改造キャンピングカーで九州へと旅立つ。表向きは彼女の故郷の海へ散骨をするためだが、その旅の過程で主人公は妻の真意を見つめなおし、ささやかな奇跡にも立ち会うことになる。純愛と旅の人情に心温まるロードムービーだ。
 なにかと刑務所関係の役柄が多い映画スター・高倉健だが、今回も制服をびしっと着こなし、いつもながらの誠実な日本男児のキャラクターを好演。80を超えてもスクリーンでの求心力は衰えていない。降旗監督も「これが日本映画だよ」といわんばかりの落ち着いた色調の映像美と、安定した"間"の表現でこれに応える。
 主人公が各地で出会うユニークな人々は演技力より知名度優先のキャスティング。決していい芝居を見せるわけではないが、それでも安っぽくならないあたりが本物の日本映画が持つオーラというものか。CGの見せ場も奇をてらった物語もないが、この映画には本物のスターだけが放つ張りつめた空気がある。こういうものは、少なくとも昨今の大ヒット邦画では絶対に味わえない。
 きっと、最近映画から遠ざかっている年配のファンたちは、こういう作品をこそ見たいのではないか。個人的には、本物を知らない若いものを連れて、ぜひ一緒に映画館で味わってほしい。

■作品データ
あなたへ
2012年8月25日公開 全国東宝系
2012年/日本/カラー/??分/制作・配給:東宝

スタッフ
監督:降旗康男
脚本:青島 武
音楽:林 祐介
製作:市川 南
企画:市古聖智・林淳一郎
プロデューサー:佐藤善宏・前田光治・小久保利己・進藤淳一

キャスト
高倉健
田中裕子
佐藤浩市
草なぎ剛
余貴美子
綾瀬はるか
三浦貴大
大滝秀治
長塚京三
原田美枝子
浅野忠信
ビートたけし



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