トップページ激映画批評

激映画批評

今月のオススメ


◆あがき、もがく若き日々をリアルに描く(70点)

 給与格差や非正規労働など現在の労働問題をモチーフにした映画は数多い。しかしそういったものを作る際、もっとも苦心するのは「いったい誰に見せるため作るのか」という点ではあるまいか。なにしろ世界的不況の中で解決策が見えない以上、希望あふれるラストはあり得ない。日々苦しんでいる当事者がそんな映画を見ても絶望が深まるだけだ。
そう考えるとこうした映画を「昔はオレもこんな風に苦労したなあ」といった具合に微笑みつつみられることは、この時代なにより贅沢なのかもしれない。  
そんな人にすすめたいのが「苦役列車」(112分、日本)。80年代後半を舞台にした貧乏青年の日常を描くドラマだ。主人公(森山未來)は19歳だというのに人生をドロップアウトし、日雇い港湾労働でその日暮らし。金も女も希望もなく、娯楽は激安の覗き風俗だけという、社会のド底辺の物語だ。
 たぶんに現在の労働問題とリンクする、ある意味アイロニカルな話といえるが、どことなく悲壮感が薄いのは空前の好景気=バブル時代という設定ゆえか。もしこれが2012年だったら、もっと悲惨な展開になっていることは間違いない。その意味で本作にはまだ「過去を懐かしむ」余裕がある。
主人公がひそかに憧れる古書店員役はAKB48卒業を宣言したばかりの前田敦子。AKBで一番の、ではなく唯一の才能というべき彼女は、持ち前の昭和的顔立ちでヒロインを好演。顔面が80年代セットの一部かと思うほどぴったりな配役で、森山の恐るべきリアル役作りに対しても一歩も引いていない。  
アイドルながら映画経験豊富な彼女は、思いやりある地味めの少女役などはお手の物。どん底の暮らしでも、こんな子といられたら生きる気になる、そんな「人間最後の希望」というべき存在を、抜群の魅力と説得力で演じ切る。男たちの前で服を脱ぎ捨て海へと走る、ファン衝撃のシーンも自然体でこなしており、今後の女優としての脱ぎ、いや活躍も期待できそうだ。
若いころ苦労した経験がある男性がこれを見ると、いくつものデジャブポイントを発見できよう。当時は苦しみだった経験でも、今思えば愛しい思い出だ。そんな風に懐かしむことのできる、かわいげのあるドラマといえる。

■作品データ
苦役列車
2012年7月14日(土)公開
2012年/日本/カラー/112分/配給:東映

スタッフ
原作:西村賢太「苦役列車」(新潮社刊)
脚本:いまおかしんじ
監督:山下敦弘

キャスト
森山未來
高良健吾
前田敦子



ページの先頭へ戻る