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激映画批評

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◆便利になって幸せになったのか?(95点)

 日本人が銭湯に行かなくなって久しい。いまやどんな家庭にも風呂があるのだから当然だが、はたしてそれは本当にいい事なのか。最近本気で疑問に思うようになってきた。古代ローマでは公衆浴場が大人気だったそうだが、それは住環境が悪く、暗くて狭い家にいるより広い風呂で大勢と語り合うほうが気持ちよかったからだ。快適な家屋と風呂を得た結果、1歩も外に出なくても生活が成り立つようになり、日本の若者はひきこもりになった。いったいどちらが幸せなのだろう。
「テルマエ・ロマエ」(108分、日本)をみてそんな事を考えたのだが、この映画自体は堅苦しさとは無縁のお気楽コメディー。風呂づくりに悩む古代ローマの風呂技師(阿部寛)が、ひょんなことから現代日本の銭湯にタイムスリップし、そこに理想の公衆浴場を発見するというSFだ。チネチッタの巨大スタジオにある古代ローマのセットで撮影した大スケールの作品ながら、なぜかローマ人を日本人俳優が当たり前のように演じているなどシュール感をも漂わせる、他に類を見ない奇妙な作品となっている。
ところがそんなおかしな見た目とは裏腹に、この作品の伝えるテーマは真剣だ。「古代ローマ人の目から見た日本」を面白おかしく鑑賞することで私たちが気づくのは、この国にはかけがえのない文化、人情があふれていること。そしてそれらが今、徐々に失われつつあるということだ。
主人公の風呂技師は現代日本にやってくるわけだが、彼はさまざまなハイテクにも興味を持つものの、心から感銘するのは銭湯の客の秩序だった様子とか、勤勉無私な老人たちの労働の姿とか、見返りを求めない思いやりの精神だったりする。高度な文明を持ちながらも、覇権国家の傲慢な国民性とは対照的な日本人の姿に、彼は驚き尊敬の念を抱くわけだ。
何かを得ると何かを失うとはよく言うが、実感する機会はあまりない。だがこの映画を見て、もし自分が狭くて不便な風呂なしの昭和的アパートにでも住んでいたら、毎日銭湯に通ったりしてもっと社会との関わりを持ち、この映画に出てくる日本人のように素朴ながらも楽しく暮らせていたかもしれないなと実感させられた。
もっとも今現在、広くて豪奢な邸宅に住んでいるわけでは全くないわけだが。

■作品データ
テルマエ・ロマエ
2012年4月28日(土)全国東宝系ロードショー
2012年/日本/カラー/1時間48分/シネマスコープ/ドルビーSRD 配給:東宝

スタッフ
原作:ヤマザキマリ「テルマエ・ロマエ」(エンターブレイン刊)
脚本:武藤将吾
監督:武内英樹
音楽:住友紀人
テーマ曲:ラッセル・ワトソン「誰も寝てはならぬ」(ソニー・ミュージックジャパンインターナショナル)
製作:亀山千広 市川 南 寺田 篤 浜村弘一
プロデューサー:稲葉直人 菊地美世志 松崎 薫
ラインプロデューサー:宮崎慎也
撮影:川越一成
照明:鈴木敏雄
録音:加藤大和
美術:原田満生(N.V.U.)
編集:松尾 浩
衣裳:纐纈春樹
ヘアメイク:豊川京子 小泉尚子
装飾:茂木 豊
スクリプター:渡辺美恵
VFXプロデューサー:西尾健太郎
VE:阿部友幸
ミュージックエディター:小西善行
サウンドエディター:伊東 晃
監督補:洞 功二
助監督:野尻克己
ローマ編ラインプロデューサー:小沢禎二
制作担当:嘉藤 博
製作:フジテレビジョン 東宝 電通 エンターブレイン
特別協力:日本出版販売
制作プロダクション:フィルムメイカーズ
配給:東宝

キャスト
ルシウス: 阿部 寛
山越真実: 上戸 彩
ケイオニウス: 北村一輝
館野: 竹内 力
アントニヌス: 宍戸 開
山越修造(真美の父): 笹野高史
ハドリアヌス: 市村正親



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