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◆心温まるカミングアウトストーリー(60点)

 年寄りというのは、たまに平然ととんでもない事を打ち明けるから油断できない。100万円で妙な壺を買ったとか隠し子がいたとか、そんな打ち明け話に悩まされた経験がある方も多いだろう(いやいないか)。
だが75歳になった自分のオヤジが、母親が死んだとたん「じつはオレ、ずっとゲイだったんだ。今日からゲイとして生活するわ」などと言い出したら、さすがの私でも仰天する。
「人生はビギナーズ」(10年、米)は、そんな境遇に陥ったイラストレーター39歳の物語。ユアン・マクレガー演じるこの主人公は、父親の突拍子もないカミングアウトに翻弄され、ただでさえ不安定な仕事にも悪影響が出るほど狼狽してしまう。一方でオヤジ(クリストファー・プラマー)はその後、やっかいな癌に蝕まれるも、若い恋人を作って息子の前でもはばからずにイチャイチャ。パーティーではゲイ仲間と抱き合って幸せそうに過ごす。どう考えても死んだ母親との結婚生活当時より生き生きとし始める。癌細胞すら吹っ飛ばすほどの勢いで。
しがらみを吹っ切った年寄りというのはある意味怖いものなしであり、こんなカミングアウトもなんだかシャレですんでしまうというか、はたから見ればコメディーになってしまうところがいい。人生はコメディーであると、私は常々思っているが、この映画はまさしくその価値観の具現化。細かいことでクヨクヨするのが馬鹿らしくなるほど爽快なストーリーになっている。
もっとも主人公の苦悩はそうそう簡単に晴れるわけではない。死んだ母親の立場を考えると切ないし、自分が育ってきた家庭が、45年間に及ぶ偽りの生活の場であったショックは計り知れない。そんな彼は、いったいどんな考えを経て落としどころを見つけていくのか、そこが見どころだ。
暖かみある視点の人情ドラマで、見るとなんだかほっとする。さらにこれが、マイク・ミルズ監督自身の身に起こった実話であり、悩みぬいた末の映画化(つまり監督の、世の中に対するカミングアウト)であることを知れば、その思いはなおさら高まるに違いない。

 

■作品データ
人生はビギナーズ
2012年2月4日(土)より新宿バルト9、TOHOシネマズシャンテほかにて公開
2010年/アメリカ映画/105分/ドルビーSR・SRD/ヴィスタサイズ 配給:ファントム・フィルム/クロックワークス

スタッフ
監督・脚本:マイク・ミルズ(『サムサッカー』)
プロデューサー:レスリー・アーダング、ディーン・ヴェネック、ミランダ・ドゥ・ペンシエ、ジェイ・ヴァン・ホイ、ラース・ヌードセン
撮影監督:カスパー・トゥクセン
美術:シェーン・ヴァレンティーノ

キャスト
ユアン・マクレガー(『フィリップ、きみを愛してる!』『ウディ・アレンの 夢と犯罪』)
クリストファー・プラマー( 『Dr.パルナサスの鏡』『サウン ド・オブ・ミュージック』)
メラニー・ロラン(『オーケストラ!』『イングロリアス・バスターズ』)
ゴラン・ヴィシュニック(「ER」シリーズ)
テリア犬コスモ

 



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