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◆独裁者の息子の影武者を演じた男の実話(60点)

 オサマ・ビンラディン、カダフィ大佐そして金正日と、2011年は名だたる独裁者たちが立て続けにこの世を去った年であった。こういうタイミングで「デビルズ・ダブル -ある影武者の物語-」(109分、ベルギー)が公開されるというのは、どこか不気味な因縁だ。

 裕福な家庭に育ったラティフ(ドミニク・クーパー)は、あるときこの国の指導者サダム・フセインの息子で同級生のウダイ(ドミニク・クーパー・二役)に呼び出される。再会を過剰に喜ぶウダイに対し不信感を抱いたラティフだが、案の定その場で彼は、予想だにせぬ過酷な命令を下されてしまう。

 さて、お坊ちゃまのラティフくんが独裁者のドラ息子から何を命じられたかといえば「お前、俺に似てるから明日から影武者になれ」という無茶振り。もっともラティフが貧乏人ならある種の出世コースといえなくもないが、彼にはイラクでは中流以上の安定した暮らしがあり、そんなバカげた仕事などまっぴらごめん。しかも時は湾岸戦争の原因となったフセインによるクウェート侵攻前夜。宿敵イランとの戦火もくすぶっていた80年代末の話だ。

 しかし、このウダイという男は父親サダムが善人に見えてしまうほどの狂人ぶりで知られる危険人物。人当たりはとても良いが、その満面の笑顔の後ろには、ひとたび機嫌を損ねたら命はないとの凄みがある。なんといってもウダイの趣味は、町で見かけた処女の女子高生を拉致してやりまくり、最後にぶち殺して道端に捨ててくる鬼畜ナンパなのだ。今年お亡くなりになった大物トリオも裸足で逃げ出すサディストぶりといえるだろう。

 原作はラティフ・ヤヒア本人による自伝で、映画の製作にも彼は全面協力。先ほどの鬼畜ナンパをはじめ、現実離れしたエピソードがいくつも開陳されるが、それが実話だと思うと恐ろしさ倍増だ。二役を演じたドミニク・クーパーも、キャリアの中でこれほど精神的にこたえた役はないと語っている。
 生存者の証言があるから映画化できたわけだが、似たような話は2011年に死んだ独裁者たちの周辺にもきっとあるのだろう。そんな風に思うとさらに空恐ろしくなる、ドでかい内部告発映画だ。

 

■作品データ
デビルズ・ダブル -ある影武者の物語-
2012年1月13日(金) TOHOシネマズ六本木ヒルズほか全国ロードショー
2011年/ベルギー/カラー/109分/ギャガ

スタッフ
監督:リー・タマホリ
原作:ラティフ・ヤヒア
脚本:マイケル・トーマス

キャスト
ドミニク・クーパー
リュディヴィーヌ・サニエ



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