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激映画批評

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◆まともな歴史映画(85点)

 年末年始はたいてい皆さん時間があるもので、腰を据えてじっくり見られる長編時代劇などはテレビ番組の定番だ。映画業界もそれにならってか、時代物、歴史もの大作がこの時期には用意されることが多い。今年の正月シーズンには、太平洋戦争開戦70周年の節目ということで、「聯合艦隊司令長官 山本五十六 -太平洋戦争70年目の真実-」が全国上映される。年度を代表する、堂々たる歴史ドラマの大作だ。

 1939年の夏。陸軍をはじめとする強硬派は日独伊三国同盟の締結に突っ走っていた。海軍左派の山本五十六(役所広司)は、日米戦争の引き金になることを理由に米内光政(柄本明)や井上成美(柳葉敏郎)らと強硬に反対。しかし時代の波には逆らえず、奇しくも自らが連合艦隊司令長官となり、開戦の指揮を執る立場となってしまう。

 真珠湾攻撃にミッドウェー海戦と、帝国海軍の節目となった重要な戦闘を大見せ場に、開戦前夜から勝敗が決する岐路までを山本目線で描いた戦争映画。山本五十六を美化しすぎな点はあれど、そこは彼のヒーロー映画だからご愛嬌。ハリウッド並のVFXによる海戦場面も迫力満点で、テレビ番組とは次元の違う映像体験を味わえる。

 歴史認識の面でも、極端な自虐史観でも戦争美化の愛国史観でもなく落ち着いている。「パール・ハーバー」(01年、米)のようなトンデモ系ハリウッド映画もときにはいいが、今はそういうものは受け入れられない時代だ。この作品はその点うまく空気を読んでおり、日本人が見て、納得がいく開戦ドラマとなっている。真珠湾はだまし討ちではなかったし、どこかの国や勢力が一方的に悪というわけでもない。強者たちそれぞれの政治的思惑によって、運命がどちらに転がるかが決まる。山本はその一角として歴史に登場したが、他の「思惑」に押し負けた。その結果日本は焼け野原になった、そういうことだ。

 いずれにしても庶民の多くにとっては戦争など天災のようなもの。乏しい情報に振り回されて浮かれる姿は哀れなものだ。田中麗奈らが演じる酒場の市民たちの服装が、戦況の変化とともにみすぼらしく変わってゆくシーンにそうした作り手の思いが込められており、観客を切ない思いにさせる。

 山本があの時死なず、生きていたらどうなったのか。日本の破滅は避けられたのか。その後の悲劇を知る現代人にとって、この映画の問題提起はじつに興味深い。お正月休みに熟考するのにぴったりな佳作といえそうだ。

 

■作品データ
聯合艦隊司令長官 山本五十六 -太平洋戦争70年目の真実-
2011年12月23日(金・祝)全国ロードショー
2011年/日本/カラー/140分/配給:東映

スタッフ
監督:成島 出
脚本:長谷川 康夫/飯田健三郎
撮影:柴主高秀
監修:半藤一利
特別協力:山本義正
製作:「聯合艦隊司令長官山本五十六」製作委員会
製作プロダクション:デスティニー

キャスト
役所 広司
玉木 宏
瀬戸 朝香
田中麗奈
益岡 徹
袴田 吉彦
香川照之



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