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◆鉄道映画の佳作が誕生(85点)

 上野の美術館や博物館がある一角を散歩すると、JR線の上を渡る格好で橋があるのに気づく。そこではいつも、幼児を連れた母親たちが眼下を行き来する電車を眺めている。新幹線から寝台特急、保守車両とあらゆる電車がひっきりなしにとおるので、ここは鉄道マニアの間では有名らしい。電車好きの子供たちも、飽きることなくいつまでも寒風の中立っている。

 巨大な鉄の塊が動く神秘が彼らの心をつかむのは容易に理解できるが、大人にとっては鉄道がもたらす旅情とドラマこそが魅力。だから鉄道映画はいつの時代も作られ続ける。

 「RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ」(123分、日本)は、そんな大人の鉄道ファンに見てほしい1本。三浦友和演じる主人公が定年間近の運転士という設定からして、狙う客層がはっきりしている。物語は彼の長年連れ添った妻(余貴美子)が、突然出て行ってしまう展開。夫の定年後に看護師の仕事を再開し、(家族ではなく)自分のために第二の人生を歩みたいとの彼女の主張は、主人公はもちろん、観客の男たちにとっても謎、謎、謎。あまりに理不尽な古女房の反乱だ。

 淡々と出勤し、レールの上をつつがなく走ることに人生をかけてきた男には、彼女の気持ちがまったくわからない。そんな不器用な男(と観客)に提示されるのは、物語の各所にさりげなくちりばめられたヒントの数々。

 それは例えば、新米運転手がひっきりなしにメールを送る、携帯の向こう側にいるであろう「カノジョ」との行く末だったりする。仕事そっちのけで着信ばかり気にする新米を叱りながら、主人公(と観客)は徐々に「出て行った妻」の心を理解し、いつの間にか真相を解き明かしてゆく。

 一見無関係に見えるこうしたサブドラマが、最終的には本筋の理解を深める伏線になっている。きわめて高度で、腰の重いストーリーテリング。これが本格的な初長編とは思えぬ蔵方政俊監督の手腕には、本当に驚かされた。

 本物の感動を与える良質な鉄道映画として、長く語り継がれるであろう好編。中高年の夫婦で見るのにも最適な、秋の掘り出し物。自信を持ってオススメする。

 

■作品データ
RAILWAYS 愛を伝えられない大人たちへ
2011年12月3日(土)ロードショー
2011年/カラ―/ビスタサイズ/ドルビーデジタル/123分 配給:松竹

スタッフ
製作総指揮:阿部秀司
監督:蔵方政俊
脚本:小林弘利/ブラジリィー・アン・山田
音楽:Nick Wood
主題歌:松任谷由実「夜明けの雲」

キャスト
三浦友和
余 貴美子
小池栄子
中尾明慶
吉行和子
塚本高史
岩松了
徳井優



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