トップページ激映画批評

激映画批評

今月のオススメ


極道めし

◆男のためのグルメ映画(65点)

 グルメ漫画は数あれど、登場人物が誰一人として実際に食事をしない作品というのはほかにあるまい。今回実写映画化された「極道めし」(108分、日本)の原作がそれで、『漫画アクション』に連載されて以来、静かなブームを巻き起こしてきた異色作だ。

 舞台は年末も近いある刑務所の雑居房。ここではこの時期恒例の「おせち争奪戦」が行われる。刑務所メシの中でも群を抜く豪華さを誇る元旦の「おせち」。そのとき優勝者は全員から、好きなおかず一品ずつをゲットできるという、莫大な権利を得られる。

 ……と書けば書くほどに、何も娯楽がない刑務所暮らしの退屈さが目に浮かんで切なくなるが、驚くのはまだ早い。なにしろ何にもない雑居房のこと、彼らが競うのはいわゆる「めしばな」。中でも一番うまそうなメシの話をした人間が優勝という、どうしようもないしょぼさである。

 そんなわけで一人ひとりの、シャバ時代のメシの思い出話が再現ドラマとともに延々繰り広げられる。要はただそれだけの映画なのだが、これがなかなか味がある。若いやつも年寄りも、それなりに人生の辛酸をなめてきた連中だから、たかがメシの話にも含蓄があったり、壮絶なドラマが隠されていたりするわけだ。

 もっとも出てくるメニューは貧乏くさいものばかりで、空腹時に食った卵かけごはんがうまかったとか、そんなものが多いのだが、シチュエーションがどれも秀逸だし、こうしたB級メニューの幸福感は男ならだれもが共感できるはず。

 なかでも主人公の若者が、幼いころ母親に捨てられた時、彼女が最後に作ってくれたという大好物のホットケーキの話がいい。幼児だった主人公は、部屋にぽつんと残されたまま、母親が戻ってくるまでそれがなくならないよう、何日もかけて少しずつ食べたというのだ。涙なくしては見られぬエピソードではないか。

 ユーモラスな人間模様と、それぞれのソウルフード。刑務所という閉鎖空間で、熱く語られるグルメ思い出話に観客も浸ってみよう。すべてのグルメは回想の中にしかないが、だからこそ思い入れという最強のスパイスによって美化され、観客の胃袋と脳みそを直撃する。ぜひ食前に見てほしい、男のためのグルメ映画といえる。

 

■作品データ
極道めし
2011年9月23日(金・祝)より新宿バルト9ほか全国ロードショー
2011年/日本/カラー/108分/配給:ショウゲート

スタッフ
原作:土山しげる
協力:大西祥平
監督;前田哲
脚本:羽原大介、前田哲

キャスト
永岡佑
勝村政信
落合モトキ
ぎたろー
麿赤兒
木村文乃
田畑智子
田中要次
木下ほうか
でんでん
木野花
内田慈



ページの先頭へ戻る