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ミケランジェロの暗号

◆ヒトラーが血眼になって探したミケランジェロの行方は?(75点)

  かつて手塚治虫は「アドルフに告ぐ」で、ナチス時代に友情を引き裂かれた幼馴染みのドイツ人とユダヤ人による、「ヒトラーの秘密」を巡る攻防を描いた。こうした作品や全盛期のフォーサイスに触れた世代にとっては、魅力的なフィクション要素を加えた歴史サスペンスは何よりのごちそうだ。

 「ミケランジェロの暗号」(10年、オーストリア)もそうした系譜に連なる作品で、舞台となるのはナチスが台頭する戦争前夜のオーストリア。主人公は裕福なユダヤ人画商の息子ヴィクトル。あるとき彼は、家族同様に暮らしてきたドイツ人の使用人の息子ルディに、家宝というべきミケランジェロの隠し場所を教えてしまう。だがそれは、ヒトラーがムッソリーニに贈ろうと血眼になって探していた貴重な絵。やがてルディはナチスに入党し、軍人として成り上がるためその絵の隠し場所を密告してしまう。

 恩人たる画商夫妻と親友を独裁者に売るようなマネをするとは、まさにルディは極悪裏切り者。そんな風に我々は見てしまうが、それは無条件にヒトラーを悪として認識している現代日本人だからこそ。

 もともとこのユダヤ人一家は、ルディを家族同然に愛していたが、ルディの側は鬱屈した感情をため込んでいた。彼の立場からすれば、異民族から使用人として両親ともにこき使われ、コンプレックスを抱いていたというわけだ。生粋のドイツ人にとって、ヒトラー率いるナチスの民族主義的主張がどう感じられたか、この部分に如実に表れている。一方的な見方、安易な共感をしてしまう自分自身に思わず反省。

 しかしながらさすがは一筋縄ではいかないユダヤ人。迫害を予知していたかのように、しっかり贋作を準備。本物とすり替えておいたから話はがぜん面白くなる。何しろこの絵の行方が独伊同盟の帰趨を握るわけで、物語はドイツ軍との騙しあいへとエスカレート。切り札一枚だけを握る主人公は、はたして収容所送りになった家族を救えるのか。静かだが、スリル満点のサスペンスが進行する。

 偽物と本物をすり替えるというモチーフは、後半にも繰り返し登場する。一方的な勧善懲悪になっていないあたりは、歴史を中立的立場からみられる大人向き。めったに見られない、知的なミステリードラマとして、お勧めしたい。

 

■作品データ
ミケランジェロの暗号
Mein bester Feind
2011年9月10日(土)よりTOHO シネマズ シャンテほか全国ロードショー
2010 年/オーストリア映画/カラー/シネマスコープ/ドルビーデジタル(SRD/SR)/106 分 配給:クロックワークス

スタッフ
監督:ウォルフガング・ムルンベルガー
原作・脚本:ポール・ヘンゲ

キャスト
モーリッツ・ブライプトロイ
ゲオルク・フリードリヒ



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