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この愛のために撃て

◆スピード感満点の巻き込まれ型サスペンス(75点)

  巻き込まれ型サスペンスというのは、サラリーマンに一番向いているジャンルではないかと思っている。特殊な能力があるわけでないごく普通の男が、何らかの事件や陰謀に巻き込まれる。ヒッチコックが得意としたひな形だが、帰ろうと思うと部下や上司の失敗のしりぬぐい残業が発生する我が国のホワイトカラーにとっては、どこか他人事とは思えぬ部分があるわけだ。

 「この愛のために撃て」(フランス、85分)もそんな典型的なパターンを踏襲。巻き込まれるのは病院の看護師(ジル・ルルーシュ)で、彼はいきなり自宅に踏み込んできた賊に、臨月の妻をさらわれてしまう。返してほしければ、お前の病院に入院しているある患者を連れてこい、というわけだ。どうやらその患者は、脅してきたマフィア連中を怒らす何かをしでかしたらしい。引き渡せばきっと殺されるだろう。奥さんと胎児を救うためとはいえ、それもまた目覚めが悪い話だ。

 ここで普通、気弱な一般人なら警察に駆け込むところ。強大な悪の権力を相手に、一人でどうこうする根性も勇気もあるわけがない。だがこの看護師クンは愛のパワーで、どんな逆境にも心折れることなく、自分の力で前に突き進む。演じるジル・ルルーシュのルックスが、いかにもさえない、何のとりえもないオッサン然としている点が、アホの一念というべき彼の無謀な行動に説得力を与えている。こういう時は、下手に頭で考えるタイプの男はリスクを取れない。的確なキャラクター設定といえるだろう。

 マフィアが狙う瀕死の患者は、やがてどうやら闇社会の一員だとわかるが、こいつの食えない性格もまたいい。主人公にとっては単なる交渉材料=人質から、やがてたのもしい味方、あるいは裏切りを腹に秘めた敵へと目まぐるしく変わる。そのスリリングな人間ドラマも見応えたっぷりだ。

 ノンストップのアクション劇──こういう作品を見ていると、たとえ泥縄といわれようが行き当たりばったりと言われようが、スピードと即断を武器に突き進むことが事態を打開することもあるのだと再確認できる。そういえばフェイスブックの創設者、若き億万長者のマーク・ザッカーバーグも、ビジネスはスピードが一番大事だと語っている。我々平民もマークさんやこの映画の看護師クンを見習って、だらけた生活にカツを入れてみようではないか。

 

■作品データ
この愛のために撃て
A bout portant
2011年8月6日(土)より、有楽町スバル座、ユーロスペース他全国順次公開
2010年/フランス/85分/35mm/カラー/シネマスコープ/ドルビーSR/SRD/PG-12 配給:ブロードメディア・スタジオ

スタッフ
監督:フレッド・カヴァイエ
脚本:フレッド・カヴァイエ、ギョーム・ルマン
撮影:アラン・デュプランティエ
編集:ベンジャマン・ワイル
音楽:クラウス・バデルト

キャスト
ジル・ルルーシュ
エレナ・アナヤ
ロシュディ・ゼム
ジェラール・ランヴァン
ミレーユ・ペリエ
クレール・ペロー



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