トップページ激映画批評

激映画批評

今月のオススメ


ブラック・スワン

◆女優、ナタリー・ポートマンの最高到達点(95点)

 永遠の思い人、藤壺に似た幼女をひきとり、理想の恋人に育て上げ妻にめとった光源氏の物語は、時を超えて妄想好きな男性の琴線に触れる魅力がある。

 男性は常に社会という名の汚れた海を泳ぎ、狩りをしなくてはならない。だからこそ、純真なるものに価値を見出し、愛する女性にそれを求める。

 むろん、白鳥のような新妻の正体が黒いトドだったりするのが現実なのだが、それでも懲りずに清純な女性を求めてしまうのが性。そして、「ブラック・スワン」(108分、アメリカ)でアカデミー主演女優賞を獲得したナタリー・ポートマンこそは、そんな中年男たちのある種の理想形というべき女優だろう。

 「レオン」(94年、仏・米)で暗殺者ジャン・レノとの歳を超えた恋愛物語を見事に演じきった12歳の天才子役。あのクールビューティーな少女はハーバード&イェール大に進学する才女に育ち、成功した子役にありがちな、道を外れた人生を歩むことなく名女優へと成長した。白鳥からトドになる例ばかり見てきた中年男たちの夢を壊さぬ、まさに女優の鑑といえる。

 今回そんな彼女が演じるのは、大役を任せられたプレッシャーから精神が崩壊してゆくバレリーナ。主役を射止めた演題「白鳥の湖」は、清純なる白鳥と悪の化身黒鳥の二役を演じ分けねばならず、相当な技巧と表現力が求められる。真面目な主人公は、どうしても黒鳥が演じられず、麻薬と夜遊びを試してみたり、したことのない一人Hに挑戦してみたりと悪戦苦闘する。

 ……と、簡単に書いてしまえるほど気楽な話ではない。監督のダーレン・アロノフスキーは末期的ヤク中患者を描いた「レクイエム・フォー・ドリーム」(00年)におけるショッキング描写の数々で、映画界を震撼せしめた奇才中の奇才。およそ麻薬の悲惨さをテーマにした作品で、あれほど恐ろしいものはない。本作でも、思わず目を背ける生々しい過激映像の数々がちりばめられる。

 そんな監督が「さすがに心配になってトレーラーの食糧庫まで確認した」とまで語るN・ポートマンの激ヤセ役作りも凄まじい。「私のダイエット法は簡単。量を減らすだけ」などと語り、9kg(というがおそらくそれ以上)も痩せた身体は、まさしくビョーキのバレリーナそのもの。

 束縛する母親の手から羽ばたけず、あがき苦しむ小鳥のような少女。気が狂い、全身に火が回り燃え続けながらも上昇しようとする、まさに瀕死の白鳥のようなキャラクターを、鬼気迫る演技で表現した。1年半特訓したバレエの出来うんぬん以前に、明らかにキャリア最高の演技であり、女優としての彼女の最高到達点を見ることができる。

 幼くして圧倒的な魅力を私たちの心に植え付けたナタリー・ポートマンは、本作で新たなる高みにたどり着いた。長年彼女を見守ってきたオジサンたちも、これほどの傑作を見れば感無量であろう。

 

■作品データ
ブラック・スワン
Black Swan
2011年5月11日(水)より、TOHOシネマズシャンテほか全国拡大ロードショー
2010年/アメリカ/カラー/108分/配給:20世紀フォックス映画

スタッフ
監督:ダーレン・アロノフスキー
脚本:マーク・ヘイマン、ジョン・マクラフリン、アンドレス・ハインツ

キャスト
ナタリー・ポートマン
ヴァンサン・カッセル
ミラ・キュニス
バーバラ・ハーシー
ウィノナ・ライダー



ページの先頭へ戻る