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英国王のスピーチ

◆イギリス好きは必見(75点)

 イギリス文化を好きな日本人は結構多い。かくいう私もその一人で、とくに紳士服については彼らの伝統的着こなしをいいお手本としている。アメリカのスーツはどこかあか抜けない印象だし、イタリアの色っぽいラインを着こなせる体型の日本人は少ない。やはりジェームズ・ボンドのようにタイトなスーツをかちっと着るほうが、この国のビジネスシーンにはマッチする。

 そして、服好きならだれもが思い出すのが、ウィンザー公ことエドワード8世(1894年〜1972年)。この英国王室きっての洒落者は、独特のワイドスプレッドのシャツ(彼にちなみ、今でもこのデザインの襟をウィンザーカラーと呼ぶ)を颯爽と着こなし、愛する女のために国王の位まで捨てた「王冠を賭けた恋」で知られている。愛に生きるオシャレなイケメンという、言ってみれば私のような男なのだ。異論は認めない。

 そんなエドワード8世の時代に、華やかな彼とは対照的な、しかし国民から深く愛された王がいた。エドワード8世の弟、ジョージ6世だ。「英国王のスピーチ」(118分、イギリス)は、そんな彼の知られざる苦労物語。王になどなるはずではなかったのに、「愛に生きた兄」が王座をかなぐり捨ててしまったがため、その跡を継いだ。そんな国王の、感動的な史実ドラマだ。

 コリン・ファース演じるそのジョージ6世は、物心ついた時から吃音症に悩まされ、それが原因で人前でスピーチができなかった。だが、時はヒトラーやスターリンら独裁者が勢いを増し、ヨーロッパを飲みこもうという時代。英国が毅然と立ち向かうためには、国民を鼓舞するカリスマが必要だった。その重圧たるや、想像に余りある。

 ジョージ6世と、その美しく社交的な妻(のちに王室史上有数の長寿を記録する王妃エリザベス)は、ろくな治療効果を上げられない王室周辺の専門家にさじを投げ、平民ながら王を前にまるで物怖じしない風変わりなオーストラリア人、ライオネル・ローグ(ジェフリー・ラッシュ)の治療を受けることに。

 もう治らないと決めつけていた王は、当初固く心を閉ざしていたが、ローグの人を食ったような態度にやがて乗せられ、いつの間にかマヌケな発声練習やら何やらを試す羽目に。二人のやり取りはユーモラスで、その練習シーンはまるで「ロッキー」のように盛り上がる。歴史ドラマとはいうが、退屈とは無縁、のめりこむ面白さがある。

 年齢や身分の差を超えた奇妙な二人の友情、彼らを取り巻くゴージャスな登場人物たち(現エリザベス女王やマーガレット王女、前述のウィンザー公など、この時代の英国王室はとても華やかだ)、そして感動的なラストシーン。はたして王は、最後のスピーチで何を伝えようとするのか。ベートーベンの厳かな旋律が流れるその場面は、これまたスポ根映画のような高揚感と達成感に満ちている。

 

■作品データ
英国王のスピーチ
The King’s Speech
2011年2月26日、TOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマ他全国順次ロードショー
2010年/イギリス・オーストラリア/カラー/118分/配給:ギャガ

スタッフ
監督:トム・フーパー
脚本:デヴィッド・サイドラー
衣装デザイン:ジェニー・ビーヴァン

キャスト
コリン・ファース
ヘレナ・ボナム=カーター
ジェフリー・ラッシュ
ほか



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