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ステロイド合衆国

◆見たいけど、これまで隠されていたスポーツ界の闇(80点)

 男たるもの、強いものにあこがれるのは当然だ。スポーツ選手であったり、プロレスラーであったり、あるいは漫画のヒーローとその対象は様々だが、デカくてパワフルな存在になりたい本能は年齢に関わらず存在する。

 そんな「巨艦大砲主義」の最たるものは、ボディビルダーでありパワーリフターであろう。筋力、筋肉への果てなき渇望はステージ上の選手から街のジムトレーニーにいたるまで、まったく変わることがない。

 やがてそれが行き過ぎれば、情熱は自らの才能の限界を超越する欲望へと変わり、最後はドーピングへと結びつく。「ステロイド合衆国 〜スポーツ大国の副作用〜」(08年、米)は、アメリカにはびこるマッチョ主義とアナボリックステロイドの実態を暴く、衝撃のドキュメンタリーだ。

 監督は高校時代、ベンチプレス190kgという驚異的な記録を挙げた元パワーリフター。ところがある日、筋肉増強剤を打ちまくった弟に60kgの大差で敗れ、引退を決意する。そして、弟と同じくヘビーユーザーでプロレスラーの兄への取材を皮切りに、スポーツ界の闇へと切り込んでいく。

 監督がもともと巨漢主義の権化たるパワーリフターなだけに、ドラッグユーザーの心理は百も承知といったところ。インタビュアーとして表向きには薬物批判の意見をユーザーにぶつけたりしているが、それはあくまで本音を引き出すためのポーズだろう。

 種目にもよるが、五輪やトップレベルの大会では、メダル候補のほとんどがドラッグユーザーなのだから、そこで戦いを挑むには、まず「打つ、飲む」事から始めなければ同じ土俵にすらあがれない。才能(ドラッグへの耐性も含む)や努力が問われるのはその先の世界だということだ。

 そういうスポーツ界の「タブーだが常識」を理解している人間が撮っているからこそ、この映画は面白い。「薬物反対」「ドーピングは卑怯」といった、単純なタテマエ論的な発想では、本作にみられる数々の衝撃的な証言はスクープできなかったろう。

 カール・ルイス、ベン・ジョンソン、ハルク・ホーガン、アーノルド・シュワルツェネッガー……。これまで私たちが見ていたのは彼らの表の顔にすぎない。その裏には、単に「ドラッグユーザー」というだけではない。哲学的な葛藤に苦しみ、超えてはならない、人間を辞めるその一線を踏み越えた男たちだけが持つ、悲壮なる意思を感じ取ることができる。

 全スポーツファン必見の、決して日本では作れないであろう実名、実映像、突撃取材てんこもりのパワフルなドキュメンタリー。おすすめだ。

 

■作品データ
ステロイド合衆国 〜スポーツ大国の副作用〜
2010年12月25日より、渋谷アップリンクほかにて全国順次公開
2008年/アメリカ/カラー/105分/

スタッフ
監督:クリス・ベル
撮影:アレクサンダー・ブオーノ



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