トップページ激映画批評

激映画批評

今月のオススメ


ノルウェイの森

◆中年男性のデート用途にぴったり(70点)

 中年男性が映画館に出かけるのは、どんな局面であろう。営業をサボったり、気晴らしの際に一人で見る。家族全員で見る。色々あると思うが、もっと作品選択に困るのは、気になる女性を誘うシーンではあるまいか。アクション映画じゃ子供じみてるし、下手なホラーじゃ人間性を疑われかねない。単館ものは好みが激しいし、官能ドラマじゃ下心ミエミエだ。

 そんな悩みを持つアナタへ、この冬一押しなのが「ノルウェイの森」(10年、日)。言わずと知れた日本の誇る世界的ベストセラーの実写映画化。村上春樹による赤と緑の二巻組ハードカバーは、当時持ち歩いているだけで教養ある男を演出できた便利アイテムとしても知られていた(……と思う)。

 舞台は昭和40年代。松山ケンイチ演じる主人公の大学生ワタナベは、親友キズキを自殺で失った後、そのカノジョの直子(菊地凛子)とふたり、深い喪失感を共有することになった。徐々に自堕落になる大学生活の中、爛漫な緑(水原希子)と出会い深い仲になるが、ワタナベは精神を病んでゆく直子への思いを断ち切れずにいた。

 実際のところ、原作同様この映画版も中身は結構エッチな展開てんこもりなのだが、そこは村上マジック。文芸作品らしい格調高さのおかげでまったく生々しさを感じさせない。そのものずばりな露出も無い。それでも情念が交錯する激しいエロティシズムを感じさせる、優れた映像作品となっている。物語の核となる、重層的な二つの三角関係は、終わった後に大人の男女が意見を言い合うのにぴったりなドラマを提供してくれる。

 当初「ノルウェイの森」の映画化のニュースが流れたときは、安っぽい青春ドラマになるか、退屈なブンゲイ映画になるのではないかと危惧していた。しかしこれは、近年の文芸作品の映画化の中では群を抜くすばらしい出来栄えだ。ビートルズの音楽、演じる役者たちの抑えた、しかし心ふるわせる演技、昭和を再現した美術と味わい深い色彩の映像など、どれも完璧。起伏が乏しいストーリー展開は好みが分かれるところだが、刊行当初に感じたノスタルジー、そして切なさを思い出させてくれる見事な語り口であったと思う。

 監督したのはベトナムの映画監督トラン・アン・ユン。日本語が通じぬ状況で、よくぞこれだけの「日本映画」を作り上げたものだ。こういうしっかりした本格作品ならば、誰を誘っても堂々と見ていられる。目的は不純でも、映画は純粋。じつにいい。

 

■作品データ
ノルウェイの森
2010年12月11日公開 全国東宝系
2010年/日本/カラー/2時間13分/PG12作品 配給:東宝

スタッフ
原作者:村上春樹
監督:トラン・アン・ユン
撮影:李屏賓(マーク・リー・ピンビン)
音楽:ジョニー・グリーンウッド
主題歌:ザ・ビートルズ「ノルウェイの森」
企画・製作:アスミック・エース エンタテインメント、フジテレビジョン

キャスト
松山ケンイチ(ワタナベ)
菊地凛子(直子)
水原希子(緑)
玉山鉄二(永沢)
高良健吾(キズキ)
霧島れいか(レイコ)



ページの先頭へ戻る