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デイブレイカー

◆サラリーマン吸血鬼(65点)

 貴重な資源を少数勢力が握ると、そこには権力と腐敗が生まれる。レアアースを握る中国、情報を握るマスコミ、そして美女を独占するイケメン……いずれも圧倒的有利な立場をもとに、やりたい放題できるパワーを持っている。

 とはいえ食糧を支配される事に比べたら、鉱物資源や情報、美女など大したことではない。「デイブレイカー」(09年、豪・米)は、2019年の近未来を舞台に、いち企業が生殺与奪の権を握る恐ろしさを描いたSF作品だ。

 もっとも、このテーマ自体にさほどの新味はない。本作がユニークなのは、吸血鬼映画という枠組みの中でそうした社会問題を描いた点。この映画の舞台設定は、決してホラー好きのティーンエイジャーではなく、ブラックジョークを味わえる大人向けのそれだ。

 コウモリから原因ウィルスがヒトへ感染し、最初の吸血鬼が生まれたのは約10年前。以来人類は吸血鬼種族に置き換わり、加速度的に減少。いまではたったの5%しかいない。そして何が起きたかというと、血液不足=食糧危機というわけだ。

 この映画、セリフを排除した冒頭部分で行われる世界観の提示が面白い。それによるとこの時代の吸血鬼は、人類時代と変わらず文明的な社会生活を営んでおり、早朝ならぬ宵の口には満員電車の出勤風景も見られる。スーツをきたサラリーマン吸血鬼たちは、駅のスタンドバーで果汁ならぬ人血20%入りのジュースを飲んでいる。不老不死のくせに毎日出勤とはじつに感心。朝日が昇るまで残業すると命取りだから、きっと今より労働基準法も厳格に守られているに違いない。

 この世界を支配するのは人間を捕獲・飼育して食用血液を生産する大企業。主人公の吸血鬼(イーサン・ホーク)はそこの研究者だが、じつは人類保護論者。人血を飲む事さえ躊躇する、なかなかの人格者(?)だ。彼はこれ以上の人間虐殺をやめるため、人工血液の開発に精を出すが、あるとき人類側のレジスタンスと偶然接触。彼らの戦いに巻き込まれてしまう。

 同じ社会派映画にしても、こういう娯楽作の形で提示されるととっつきやすいし、何よりエスプリに富んでいる。アクションも世界観も、しっかりした映像美と相成って迫力満点。ゾンビ映画はエログロでもいいが、やはり吸血鬼映画にはそれなりの格調高さがほしいもの。古典的ヴァンパイア映画には美女がつきものだが、ウィレム・デフォー、サム・ニールといったむしろアクの強い男優たちが目立っているのもユニークなところ。いつもと違う異色作を楽しみたい方に向いている。


■作品データ
デイブレイカー
Daybreakers
2010年11月27日、新宿バルト9他全国ロードショー
2008年/オーストラリア・アメリカ/カラー/シネマスコープ/DTS・SDDS/字幕翻訳:松浦美奈/上映時間:98分/R-15 配給:ブロードメディア・スタジオ

スタッフ
監督:ピーター・スピエリッグ、マイケル・スピエリッグ 『アンデッド』

キャスト
イーサン・ホーク
ウィレム・デフォー
イザベル・ルーカス
サム・ニール



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