トップページ激映画批評

激映画批評

今月のオススメ


リミット

◆こんなに制約だらけなのに面白い(98点)

 男は妄想の生き物だから、一度くらい「こんな映画を作ったら面白いに違いない」などと考えたことがあるはずだ。それは夢の大スター共演だったり、予算無限大のSF大アクションだったり、あるいはあこがれの女優のヌードがあったりするかもしれない。

 かくいう私も中学生の頃、いまだかつて誰も見たことのない斬新なスリラー(自称)を考えたことがある。舞台は棺桶の中、死んだばかりの男が主人公で、肉体は生命活動を停止しているも意識はまだ残っているという設定であった。棺桶ひとつ出演者ひとりなら金をかけずにできるだろうという、貧乏根性丸だしなアイデアである。

 ところがその直後、当時大人気だったサスペンスドラマ「ヒッチコック劇場」の「最終脱獄計画」というエピソードで、それによく似た脚本に出会い、着想を盗まれた(そんなわけはない)と涙したものだ。

 あれから数十年、そのヒッチコックに刺激されたというスペインの監督が、またも「棺桶サスペンス」を生み出した。しかもその出来栄えたるや、ヒッチコック劇場はもちろん、なんと中学生前田の脳内超大作よりも上であった(当たり前)。

 男が目覚めるとそこは棺の中。すでに地中深く埋められており、手元には携帯電話とジッポー、懐中電灯があるだけだ。携帯は他人のもので、アドレス帳は役に立たない。さて主人公は、このわずかなアイテム(と空気)を使って、どう脱出すればいいのだろうか。

 閉所恐怖症なら10分間で死ねる、狭苦しい94分間の始まりだ。仰天するのはこの映画、最初から終盤まで登場人物は一人(電話相手の声は除く)、舞台はこの棺の中だけ。中学生の私もびっくり、本当にそれだけで映画を作り上げてしまったのだ。

 カメラのアングル、演技、照明……これだけの制約の中、各スタッフ、キャストは全力でこの作品にメリハリを与え、まったく退屈しないエンタテイメントに仕上げた。強靭な脚本力と徹底した見た目の工夫により、猛烈な面白さと焦燥感、恐怖を与えてくれる。とてつもない傑作の誕生だ。

 制約が厳しいほど、努力していいものを生み出すというのは万国共通なのだろうか。金も時間もない制約だらけの日々を送る私も、きっと間もなく凄いものを生み出すに違いない。そんな幸せな妄想を刺激してくれる、ありがたい作品だ。


■作品データ
Buried
2010年11月6日シネセゾン渋谷他全国順次公開
2010年/アメリカ/カラー/95分/配給:ギャガ

スタッフ
監督:ロドリゴ・コルテス
脚本:クリス・スパーリング

キャスト
ライアン・レイノルズ



ページの先頭へ戻る