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悪人

◆孤独な男女のせつない愛の逃避行(75点)

 女というのは罪な生き物だ。自分では気づいていないのか、はたまた計算づくなのか、男を振り回すタイプがたまにいる。愛情注ぐ彼氏に対し、なぜわざわざトラブルの種をまくのか、そのあたりが男には理解不能だが、相手の感情をかき乱すことで愛を確かめるかのように、あるいは障害ある恋に興奮したいかのように、今日もどこかで愛憎劇が繰り広げられている。

 さて、そんな危険な駆け引きのゲームが、ときに臨界点を超えることもある。男女関係をめぐる刃傷沙汰ほど、滑稽で、そしてせつない事件はない。だがそんなありふれた事件の中のどこに真の「悪人」がいるのだろうか。罪を犯したものか、それとも罪を引き起こしたものか。あるいは無責任に事件を語る傍観者か。映画「悪人」(139分、日本)は、重厚な本格演出でそんな命題を問いかける。

 妻夫木聡演じる主人公のワーキングプアな青年は、出会い系サイトで出会った女をある理由から殺害してしまう。やがて彼は別のメル友(深津絵里)を呼び出し強引にホテルに連れ込む。そして混乱と不安の気持ちをぶつけるかのように、初対面の彼女の体をむさぼるのだが……。

 何も知らない者から見ればこの男は悪人。それでファイナルアンサーだ。しかし、その孤独な生活環境、周囲にあふれる悪意に満ちた人物たち、そして主人公以上に孤独なヒロインとの交流により、観客の先入観は徐々に打ち砕かれてゆく。被害者加害者どちらにも肩入れしない冷静な描写、しかし一貫して弱者への愛情を忘れぬ監督の姿勢により、心に響く感動的な人間ドラマとなっている。

 愛をもてあそぶ女は残酷だ。だが、愛に罪があるわけではない。人を愛したことで誰かを(時にその相手をも)不幸にしたとしても、愛することをやめない主人公の姿は立派だ。

 いいようのない孤独、それが本作に登場する男女の愛の背景、原動力であり、それを理解できる観客にとってこの映画は、何日も残るせつない余韻を与えてくれるだろう。主人公が愛する女の未来のため最後に見せる、想像を絶した「愛の行為」に、同じく愛に生きる映画批評家の私も共感せずにはいられない。誰かを好きになっている皆さんにも、ぜひすすめたい情念あふれるドラマ作品だ。


■作品データ
悪人
2010年9月11日(土)全国東宝系ロードショー
2010年/日本/カラー/2時間19分/配給:東宝

スタッフ
原作:「悪人」吉田修一(朝日新聞出版刊)
脚本:吉田修一、李相日
監督:李相日
音楽:久石譲
制作:東宝 映像制作部
製作:映画「悪人」製作委員会

キャスト
清水祐一:妻夫木聡
馬込光代:深津絵里
増尾圭吾:岡田将生
石橋佳乃:満島ひかり
石橋佳男:柄本明
清水房江:樹木希林



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