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今月のオススメ


ヒックとドラゴン

◆紛争解決の困難さを偽善を廃して描いた、この夏のダントツ最高傑作(97点)

 この原稿を書いている7月中旬の東京では、35度を超える暑さが連日続いている。カイロかドバイじゃねえんだからと悪態をついてみても始まらないが、こんな天気でも子供たちは元気はつらつ。公園でサッカーやろうよ、などと誘われるお父さんも少なくなかろう。寄る年波にそんな拷問みたいな仕打ちをしたら、それこそ砂漠でぶっ倒れる旅人と同じ運命である。そこで今回は、涼しい映画館でお子様と楽しめるオススメ品を紹介したい。

 「ヒックとドラゴン」(アメリカ/98分)はディズニーのライバル、ドリームワークス製のアニメーションで、3D版を中心に上映される。主人公はバイキングのたくましいリーダーを父に持つ気弱な少年ヒック。村では害獣のドラゴンの集団が連夜、家畜を狙って襲ってくるため、それらを「狩る」腕力がないと一人前とは見られない。非力で優しい性格のヒックは、偉大な父のようになれない事が最大のコンプレックスだ。そんな彼が、あるときケガして飛べないドラゴンと出会い、ひそかに世話することで友情を育んでいく。

 これだけ書くと、ありがちな教訓ものに思えるがさにあらず。なんたってこれはアンチ・ディズニーを社是とするドリームワークス製アニメ。もっとも近年は予定調和なディズニー世界の劣化版のような作品ばかりで「シュレック」一作目を発表した頃のようなトンガリ感を失っていたが、ようやく本作で原点回帰。誰もが予想する結末をひっくり返した、ショッキングなオチが最大の特徴となっている。

 そもそも、味方を数え切れぬほど虐殺してきた敵対種族との交流が、「平和」「共生」などといった奇麗事だけで済むはずは無い。この物語は、現実社会で頻発する戦争、民族紛争がなぜ容易に解決しないか、当事者の感情に焦点をあて描いた側面を併せ持つ。仲良しになったドラゴンを擁護するヒックに父親が「奴らにいったい何人の仲間が殺されたと思っているんだ」と一喝するシーンのショックは、それを如実に表したセリフだろう。

 それでも両種族の和解をさせたいのならば、それ相応のツケを支払わなくてはならない。「ヒックとドラゴン」が素晴らしいのはその、本来ならば大人たちが隠したがる厳しい現実を、子供向き映画の中で堂々と描いたことだ。こういう作品は、(悪く言えば)偽善的なディズニーのファンタジック世界観の中からは絶対に生まれない。

 この大傑作の結末の意味を、息子にしっかりと教えることができる父親は、きっと深い尊敬を勝ち取ることが出来るはずだ。少なくとも猛暑の炎天下で、ヨレヨレになって公園サッカーにつきあう姿を見せるよりは。


■作品データ
ヒックとドラゴン
How to Train Your Dragon
2010年8月7日(土)新宿ピカデリー他 全国超拡大ロードショー
2010年/アメリカ/カラー/1時間38分/配給: パラマウント ピクチャーズ ジャパン

スタッフ
監督・脚本:ディーン・デュボア、クリス・サンダース
製作:ボニー・アーノルド
製作総指揮:クリスティン・ベルソン、ティム・ジョンソン
原作:クレシーダ・コーウエル
プロダクション・デザイナー:キャシー・アルティエリ
美術監督:ピエール=オリヴィエ・ヴィンセント
視覚効果スーパーバイザー:クレイグ・リング
ストーリー責任者:アレサンドロ・カーロニ
キャラクター・アニメーション責任者:サイモン・オットー
ステレオスコピック・スーパーバイザー:フィル・マクナリー
特殊効果責任者:マット・ベア

キャスト
ジェイ・バルチェル (ヒック)
ジェラルド・バトラー (ストイック)
クレイグ・ファーガソン (ゲップ)
アメリカ・フェレーラ (アスティ)
ジョナ・ヒル (スノット)
クリストファー・ミンツ=プラッセ (フィッシュ)
T.J. ミラー (タフ)
クリステン・ウィグ (ラフ)




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