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ウディ・アレンの夢と犯罪

◆軽いタッチで見せる人間の本質(75点)

 世間は華々しいアカデミー賞の話題で盛り上がっている。作品賞の「ハート・ロッカー」は最高のタイミングで公開となったばかりだし、日本のイルカ猟を徹底批判した「ザ・コーヴ」(長編ドキュメンタリー賞受賞)も順調に行けば来月公開になる。

 しかしながら世間にはこうした騒ぎと無縁の作品があるもので、「ウディ・アレンの 夢と犯罪」(108分/イギリス)もそのひとつ。アメリカではアカデミー賞に漏れた絞りカスが揃うと揶揄される1月(賞狙いの本命作品は、ノミネート資格の締め切りが近い年度後半に公開が集中するため)に公開され、目立った成績も残さず消えていった一本。だが、こんなところに意外な掘り出し物があったりする。

 ロンドンで小さな父の料理店を手伝って暮らすイアン(ユアン・マクレガー)と、自動車修理工の弟テリー(コリン・ファレル)。二人はある日、中古ながら美しい小型ヨットを見つけ、思い切って購入する。同時にツキも回ってきて、兄イアンには美しい女優の恋人もできた。ところがそんなとき、テリーがばくちで多額の借金をこさえてしまう。

 ギリシャ神話に登場する王女カサンドラは、誰にも信じてもらえない悲劇の予言者。その名がつけられた兄弟のヨットCASSANDRA'S DREAM号は、二人に想定外の悲劇をもたらすことに。やがて彼らは破産から救ってくれるという人物から、代償としてある男の殺害を依頼されるのだ。

 かたや、殺さなければ破産。かたや、殺せば莫大なカネを得てしがない労働者階級の暮らしから抜け出せる。似ているようで異なる兄弟二人の立場に注目だ。より切実なのはもちろん借金で追い込みをかけられている弟。一方兄は……? 人は追い込まれて殺すのか、それとも上流の暮らしを夢見て殺すのか。邦題はより本作のテーマを強調している。

 ウディ・アレン監督は、神経症的なまでのルーティンワークで毎年新作を発表する多作の巨匠。本作は前二作同様、古巣のニューヨークを離れイギリスで撮影。今回はいよいよアメリカ人をキャスティングすらせずに作り上げた。「これは悲劇にも喜劇にもなる」と本人が語るとおり、鑑賞後の後味は決して悪くない。上品で軽いタッチの、文字通りの小品といった具合で、中年カップルが軽く週末に見るミステリとしては、胃もたれもせずちょうどいい塩梅だろう。


■作品データ
ウディ・アレンの夢と犯罪
CASSANDRA'S DREAM
2007年/イギリス/108分/配給:アルバトロス・フィルム
2010年3月20日、恵比寿ガーデンシネマほか全国順次ロードショー!

スタッフ
監督・脚本:ウディ・アレン
編集:アリサ・レプセルター
音楽:フィリップ・グラス

キャスト
ユアン・マクレガー
コリン・ファレル
ヘイリー・アトウェル
サリー・ホーキンス




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