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THE WAVE ウェイヴ

◆独裁主義の発展過程を再現した恐るべき実験(60点)

 ちょっとした映画好きの間でよく話題になるのが「史上もっとも恐ろしく、かつ不思議な実験の再現ドラマ」こと『es [エス]』(01年、ドイツ)。無関係の人々を集め、看守と受刑者役に分けて模擬刑務所で過ごさせたところ、恐ろしい変化が見られたというお話だ。

 現実におきた実話性、学術目的の実験が悲劇を生んだ意外性、いかにもありそうな実感伴う内容が、大いにカルト的人気を呼んだ。そのDVDパッケージはスキンヘッド風のドイツ人の顔面で、いかにも不気味な印象だ。

 映画『ウェイヴ』(ドイツ/108分)のメインイメージは、それを髣髴とさせるこれまた剃髪ドイツ男の後姿。すわ、8年を経て二匹目のどじょう狙いか? ……と思ったら、本作の元ネタは、『es [エス]』のモデル「スタンフォード監獄実験」より4年早い67年に、米国・カリフォルニアのある高校で行われた実習授業を基にしているという。これはその衝撃実話を、現代ドイツに舞台を移して描いたサスペンスだ。

 教師ライナー・ベルガー(ユルゲン・フォーゲル)は、デモや反政府運動に参加した経験から「無政府主義」の授業を希望したが、専門外の「独裁」の担任を命じられる。そこで彼は、1週間の実習として、クラスで独裁者役を決め、全員で従う「実験」を提案する。

 こんなお気楽な思いつきで授業をやられちゃたまらないが、この実習は生徒たちに大いにウケる。彼らは協力しあい、ほんの一晩でクラスの「国名」や「公式ウェブ」、国旗にあたる「ロゴマーク」などを完成させる。即席にしては立派な「議事独裁国家」の誕生だ。

 このあたりの流れは、文化祭や体育祭でリーダーのもと、異様な「団結力」を体験した事のある人にとっては、リアルに感じられよう。若者というものは、あれで意外と孤独・疎外感を抱えている。要するに、不安で仕方がないのだ。彼らは常に「努力、友情、勝利」に飢え、強い指導者に憧れている。だから週刊少年ジャンプもよく売れる。

 それを、この授業の独裁実習は与えてくれた。だから彼らはハマり、そのエネルギーはクラスどころか学校の枠を超え、制御不能な暴走を始めてしまう。このあたりの「説得力」の表現にやや不足があるものの、実験経過とショッキングな最終結果は、国を違えた我々にとっても大いに興味をかきたてられるものがある。

 考えてみれば、独裁はそこらじゅうに転がっている。会社内の上下関係、大学の体育会、そして家庭……。中でも、強大な権力を持つ女独裁者の尻にしかれるアナタなら、その根本原理を探るため、見ておいて損はあるまい。


■作品データ
THE WAVE ウェイヴ
2009年11月14日、シネマート新宿にて、他全国順次公開
2008年ドイツ映画/108分/ドイツ語/カラー/シネスコサイズ/35mm/PG-12/配給・宣伝:アット エンタテインメント

スタッフ
監督:デニス・ガンゼル
脚本:デニス・ガンゼル、ペーター・トアヴァルト
製作:クリスティアン・ベッカー
原作(短編):ウィリアム・ロン・ジョーンズ
原作(長編):モートン・ルー「ザ・ウェーブ」(刊:新樹社)
原作TVドラマ脚本:ジョニー・ドーキンス、ロン・ビルンバッハ
クリエイティブ・プロデューサー:ニーナ・マーグ
スーパーバイジング・プロデューサー:アニタ・シュナイダー
共同製作:マーティン・モシュコヴィッチ、ダーフィト・グレーネヴォルト、フランツ・クラウス、アントニオ・エクサクストス
ユニットプロダクションマネージャー:ウーリ・ファウト
プロダクションマネージャー:パティ・バート、ペーター・シラー
撮影:トーステン・ブロイアー

キャスト
ライナー・ベンガー:ユルゲン・フォーゲル
ティム:フレデリック・ラウ
マルコ:マックス・リーメルト
カロ:ジェニファー・ウルリッヒ
デニス:ヤーコプ・マチェンツ
アンケ・ベンガー:クリスティアーネ・パウル




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