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沈まぬ太陽

◆最高にタイムリーな公開(70点)

 役者の中には、時代を感じさせる顔を持つ人がいる。まるでこの時代の人物ではないかのようなムードを持つ、というわけだ。過去の時代を描くドラマを作る場合、こうした俳優の存在は大きい。手の込んだセット(最近ではVFX)と同じように、フィクションの世界観を構築するその一部になってくれる。

 山崎豊子、最後の未映像化作品の映画化「沈まぬ太陽」は、昭和30年代から終わりにかけてを舞台とする3時間22分(途中休憩10分含)の超大作。ナショナルフラッグキャリアの労組委員長(渡辺謙)を主人公に、その波乱万丈な人生を追いかける。

 非常高い照明・撮影技術、そして美術に驚かされる作品で、この手の昭和ものの中では群を抜くリアルな映像を見ることができる。それは箱庭的な「ALWAYS」シリーズなどとは別次元の完成度の高さで、本当に昭和40年にタイムスリップして撮ってきたのではと思うほどの街並み……というより、空気の色を再現している。この時代を生きてきた人が見たら、きっと例外なく同じ感想を抱くだろう。

 中でも、渡辺謙の風貌はもう、まるっきり昭和の企業戦士そのもの。彼の顔貌には、平成でなく昭和的な逞しさが漂う。これこそ「時代を感じさせる顔」だ。これが杉良太郎や加藤剛になると、いきなり江戸時代まで遡ってしまうが、渡辺謙なら昭和でとどまる。そこがいい。

 労働組合でタフネゴシエーターぶりを発揮したせいで懲罰人事に何年も苦しまされるこの男は、しかし不屈の精神で僻地勤務をこなし、やがては墜落事故の遺族係という、誰もやりたがらない難仕事を押し付けられる。だが、長年塗炭の苦しみを味わい、人の心の痛みを誰よりも知る彼だからこそ、これは適職であった。金で解決しようとする会社側の弁護士に、逆に食って掛かるシーンの迫力は、熱い涙を誘う名場面だ。

 エンドロールなどで、映画はことさらフィクションを強調するがそれも当然。誰が見てもこの航空会社はJALの事だし、主人公以下主要な登場人物にも実在のモデルがいる。企業人はともかく、政治家などは当時を知る者ならすぐに誰のことかわかるだろう。日本航空の再建が叫ばれるいま、その闇に光を当てる本作が大々的に公開されるとは、なんと大胆なことか。


■作品データ
沈まぬ太陽
2009年10月24日公開 全国東宝系ロードショー
2009年/日本/3時間22分/配給:東宝

スタッフ
監督:若松節朗
製作総指揮:角川歴彦
脚本:西岡琢也
原作:山崎豊子
音楽:住友紀人
撮影:長沼六男
編集:新井孝夫
製作:「沈まぬ太陽」製作委員会

キャスト
渡辺謙
三浦友和
松雪泰子
鈴木京香
石坂浩二
横内正
小野武彦
香川照之
宇津井健
戸田恵梨香
蟹江一平
桂南光




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