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PVC-1 余命85分

◆85分間ワンカットという驚愕技法(60点)

 男にとって、もっとも恐ろしい事態とは何か。携帯メールを妻に見られるとか、HDDのデータを消さずに死ぬとか、色々あるとは思うが、冗談抜きで考えたら「家族の命が狙われること」だろう。ましてそれを防ぐために、自分にできることがまったく無い状況というのは、考えただけでもゾッとする。

 「PVC-1 余命85分」(85分/コロンビア)は、そんな恐怖を描いたシチュエーションスリラー。コロンビアで実際に起きた事件を映画化した、身の毛もよだつストーリーから紹介しよう。

 舞台は南米コロンビア。ある農場主(ダニエル・パエス)の家を、突如やってきた武装グループが襲う。家族全員を拘束し、金を出せと脅すが、どうやら持ち合わせは無い模様。すると犯行グループは、一家の妻の首に、巨大な首輪のごときものを装着し去る。それはなんと、数十分後に爆発する時限爆弾であった。

 この映画の最大の特徴は、実話であることよりも、完全なリアルタイム進行という点だろう。85分間の恐怖を、まるまる85分間かけて描く。さらにいえば、その85分間、ただの一度もカットが入らない。そう、驚くべき事に「PVC-1 余命85分」は、たったのワンカットで構成されているのだ。

 その最大の狙いはもちろん、事件の恐怖を観客の皆さんに身をもって体験していただこうという親切な配慮のためであろうが、新鋭スピロス・スタソロプロス監督の、「カネはないが世界を驚かす映画を作ってやる」という野心の表れでもある。そしてそのもくろみは見事的中し、本作はカンヌ(ローマ市賞)はじめ、各地の映画祭でいくつもの賞を受賞した。

 にしても、ワンカットで映画を作るのは、さぞ大変だったろう。なにしろ途中で誰かがセリフひとつ間違えたらおしまいだ。密室劇じゃないから、小道具の準備が間に合わなくても、カメラの移動が遅れても、撮影機材のひとつが構図に入ってしまっても同様。すべて最初からやり直し、だ。

 こんなリスキーな撮影法は、プロデューサー軍団が経費の無駄遣いに目を光らせるハリウッドの大規模作品ではとても無理。小回りの利く、あるいは多少失敗しても自分たちが残業すればすむような、自主映画に近い低予算企画だからできた事だ。

 そして面白いことに、そんなチビっこい映画の方が、妙に身に迫る恐怖を感じるのだからたまらない。映画館を出たときに、フィクションでよかったなぁと心から思えるバーチャル恐怖体験を、貴方もぜひどうぞ。


■作品データ
PVC-1 余命85分
PVC-1
2009年3月14日(土)より、シネセゾン渋谷にてレイトショー ※他全国順次公開
2007年/コロンビア/カラー/85分/配給:トランスフォーマー+トルネード・フィルム

スタッフ
監督・撮影:スピロス・スタソロプロス
脚本:スピロス・スタソロプロス、ドワイト・イスタンブリアン

キャスト
メリダ・ウルキーア
ダニエル・バエス
アルベルト・ソルノサ
ウーゴ・ベレイラ




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