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罪とか罰とか

◆演劇界の鬼才KERA、笑いに徹した監督3作目にして本領発揮(55点)

 暗い時代には、生々しい政治映画や社会派ドラマより、コメディが欲される。そんな映画業界の原則どおりとしたら、現代日本にはたくさんのコメディ映画が必要だ。

 ところが、こういうときに限って邦画界にはめぼしいものがない。それでもようやく、平均を上回る国産品が登場した。それこそが「罪とか罰とか」(日本/110分)。

 まるっきり売れないグラビアアイドル(成海璃子)は、コンビニで見つけた雑誌の自分のページだけ、間違って印刷されていることに狼狽し、思わず万引きしてしまう。あっけなく捕まった彼女は、罪をもみ消す代わりに、一日警察署長をする羽目に。ところがそこに強盗事件が発生。名目だけのお飾りと高をくくっていた彼女に、署員らはなぜか本気で指示を仰ぎだす。

 ……しかし本作は、そんなあらすじなど気にせず見てほしい一品。もちろんきちんと本筋はあるし、それどころかかなり凝った脚本構成になっている。が、それよりもあちこち脱線するかのような「支流」の面白さこそが魅力だと私は感じる。先に進むことなど忘れ、目の前のシーンだけを、ただゆるゆると座席でくつろぎ楽しむやり方をすすめたい。

 ケラリーノ・サンドロヴィッチ監督の3作目となる本作は、彼の敬愛するモンティ・パイソンやマルクス兄弟のように、スピーディーで、ナンセンスで、そして強烈な毒をもつギャグに満ちている。小劇場での演劇で一世を風靡したこの監督の持ち味が、今回はじめて映画で生きたといえるのではないか。

 そもそも、"舞台"と"映画"の最大の違いは、観客との距離。とくに笑いを武器とする監督にとって、それを見誤ることは致命的。繰り出す笑いは空回りし、ひたすら寒い空気が流れてしまう。だが本作には前作までのような、そうした失敗場面がまるで見られない。3作目にして、完全に適切な間合いをつかんだと見える。

 もっともこの監督のギャグは、決してレンジの広いタイプではない。具体的にいえば、80年代に青春を謳歌した男性が、もっともツボにはまると思う。試写室でも、私を含めそのくらいの世代の男性諸氏だけが、こらえきれぬ笑いをこぼすような状況だった。

 そんなわけで、一般ウケが望めない分、点数自体は低めだが、ツボにはいったら大笑い確実。このコラムで紹介するからには、男性の方にこそ見に行ってほしいと思う。


■作品データ
罪とか罰とか
2009年2月28日(土)より、シネマライズ、テアトル新宿ほか全国ロードショー
2008年/日本/カラー/110分/配給:東京テアトル

スタッフ
監督:ケラリーノ・サンドロヴィッチ
撮影:釘宮慎治
美術:五辻圭
装飾:龍田哲児
照明:田辺 浩
録音:尾崎聡
音楽:安田芙充央

キャスト
成海璃子
永山絢斗
段田安則
犬山イヌコ
山崎 一
奥菜恵
大倉孝二
安藤サクラ
串田和美




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