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シティ・オブ・メン

◆ブラジルのスラムの現実を、悲壮感ゼロで描き出す(65点)

 原色のTバックビキニが、小麦色の女の子によく似合う。紺碧の海と白い砂浜のコントラストが、ひたすら平和でのんきなイメージを喚起する。そんなブラジル、リオデジャネイロのビーチの、背後の丘はしかし世界有数のスラムである。

 「シティ・オブ・メン」(106分/ブラジル)に登場するビーチのシーンは、この地理的特徴を見せることで、私たちの暮らす世界と犯罪者のそれが、あやういバランスの元に成り立っていることを効果的に伝える。とくに映画の舞台となる貧民街区ファベーラの場合、普通の住民とマフィアの境界はきわめてあいまいである。

 主人公はこの貧民街で育った二人の少年、アセロラとラランジーニャ。生まれながらの親友同士だ。ある日、行方不明だったラランジーニャの父親が街に戻ってくる。父との暮らしを優先したいラランジーニャに取り残された形のアセロラは、やがて敵対するギャング団に身を寄せる。

 この映画にはほとんど警察の姿が見えてこない。その代わりに地域の治安を守るのは、若者中心に組織されたギャング団。ラランジーニャのような地元の子供たちが抵抗なく組織に入ってしまうのも、彼らの勇ましい、あるいは頼もしい姿を見て育っているから。貧しい国では貧弱な公共サービスの代わりを彼らが担う。地域密着型のきめ細かいサービスが売りというわけだ。そんな社会背景を知ってから見ると、この一見非現実的にも見えるブラジル映画を理解しやすくなる。

 本物の銃を持ち、隣の組織と縄張り争いに明け暮れる彼らの日常を、映画は乾いたタッチで描き出す。地元でスカウトした素人を多数起用し、セリフの言い回しはアドリブに任せ、撮影も本物のスラムで行った。そうして作られた映像は、一目して凡百のギャング映画とは別格だとわかるだろう。

 警察の不在とは、すなわち社会における父性の不在。そうした特殊な社会構造が、この物語のテーマである父親の存在の大切さを浮き彫りにする。ラテン気質ならではの明るく前向きな筆致は、厳しい現実を描きながらも一縷の希望を感じさせる。貧困や格差問題に悩む現代の日本人にとって、意外な視点を与えてくれる佳作といえる。


■作品データ
シティ・オブ・メン
Cidade dos Homens
2008年8月9日、渋谷シネ・アミューズほか全国順次ロードショー
2007年ブラジル/カラー/1時間46分/日本語版字幕:松浦美奈/字幕監修:中原仁/後援:ブラジル大使館/配給:アスミック・エース

スタッフ
監督:パウロ・モレーリ
製作:フェルナンド・メイレレス

キャスト
ドグラス・シルヴァ
ダルラン・キュンハ




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