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カルラのリスト

◆国連・国際刑事裁判所の活動現場に興味がある人に (60点)

 一般に男社会ではお互い妥協しやすく、共同体が安定するといわれる。しかし権力や既成概念を打ち破る際には、逆にそうした暗黙のルールを無視して突っ走る"問題児"が力を発揮する。「正義の反対は悪ではなく別の正義」なんてもっともらしい言葉に惑わされず、自らの信条のみを絶対的指針として迷いなく行動する。市民団体のリーダーに女性が多いのを見れば、その手の役目が男性以上に向いているのは明らかだ。

 『カルラのリスト』(95分/スイス、フランス)の主人公、カルラ・デル・ポンテもそんな一人。本作はICTY=旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷の検事長である彼女を追ったドキュメンタリー。

 安全保障理事会によって93年に発足したこの国連機関は、ボスニア紛争における集団虐殺など戦争犯罪の指導者を捜索〜拘束し、裁きを与える国際刑事裁判所。カルラは「世界一厳重」と称される屈強な護衛陣と各専門家チームを引き連れて、日夜世界中を小型ジェットで飛び回っている。

 とはいえICTY自体には警察・軍事力といった"腕力"がないから、できる事と言えば記者会見を通じて国際世論に訴えたり、紛争当時国政府に協力を仰ぐくらいしかない。予算も少なく、持てる交渉カードも多くはない。それでもセルビアの元大統領ミロシェビッチや、クロアチアのゴトビナ元将軍の逮捕という快挙を成し遂げられたのは、大統領や首相を前にしても決してひるまない、彼女の妥協なき追求姿勢の賜物だ。

 だいたい戦争犯罪人なんてものは本国では逆に英雄扱いで、国をあげて匿われている事がほとんど。まさに「正義の反対は別の正義」だ。そうした方面からのカルラに対する圧力も半端ではないが、それでも自らの正当性を疑うことなく、揺ぎ無い自信で跳ね返すタフネゴシエーターぶりは、もう圧巻である。

 密着したカメラが伝えるその冷静な仕事ぶり、戦略の立て方、そして正義感に燃える表情を見ていると、いやはや、オンナってのは凄いもんだと改めて思う。まさに肝っ玉母ちゃん。あのおっかない顔で睨まれたら、テロリストの大将も百戦錬磨の政治家も、思わずたじろいでしまうだろう。

 カルラのリストに載っているのは、セルビア人指導者ラドヴァン・カラジッチやラトコ・ムラディッチなど残り6名。ニュースで彼女の完全勝利を我々が知る日も、案外遠くないかもしれない。

■作品データ
『カルラのリスト』
Liste de Carla, La
2007年11月10日、東京都写真美術館、アップリンクXにてロードショー
2006年/スイス・フランス/カラー/95分/配給:アップリンク

スタッフ
監督:マルセル・シュプバッハ
プロデューサー:ジャン=ルイ・ポルシェ、ジェラール・リュイ
撮影:デニス・ユッツラー
編集:グヴィッド・モンチ
音楽:ルイス・リャック

キャスト
カルラ・デル・ポンテ



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