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ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習

◆単なるドッキリカメラにとどまらない社会派 (70点)

 昔、「どっきりカメラ」なるテレビ番組が流行ったことがあった。ご存知スタッフが一般人にイタズラを仕掛け、隠しカメラに収めた映像を見て笑うという企画だ。例としては、何も知らず温泉に入っているオジサンの横へ、突然ニセヤクザ集団がやってくる、なんてのがよくあるパターン。まあ毒にも薬にもならない、お気楽番組だ。

 ところが、これが多人種国家たるアメリカ合衆国を舞台に、差別・宗教・思想ネタなど大タブーに触れまくるイタズラとなれば話は別。よくて通報、悪けりゃその場で射殺。そんなヤバめのドッキリを、全米中を旅しながら仕掛けるドキュメンタリー『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』は、米国を知る人が見れば大爆笑&背筋が凍る一本だ。

 仕掛け人は英国人コメディアンのサシャ・バロン・コーエン演じる偽カザフスタン人=ボラット。このヒゲ男は「祖国から文化交流に来たTVリポーター」という設定で、何も知らない米市民に大迷惑をかけまくる。

 道行く男性にカザフ式挨拶などといってキスを迫るなんてのは朝飯前。水洗トイレにたまった水で顔を洗うわ、ウンコをポリ袋に入れてディナーの席に持ち帰るわと大暴走。それでもジャイアニズムの権化たる米国の金持ちたちは、カザフなんて小国を知るわけもないから、ボラットのインチキな「文化交流」を疑いもせずニコニコしている。

 彼らは一見ボラットを受け入れているように見えるが、実際は差別的優越感を感じているにすぎない。そんな心理状態が、ネタを知る観客には手に取るようにわかってしまう。ドッキリで笑わすのみならず、アメリカ社会に潜むそんな排他性、差別性を浮き彫りにする反骨精神が本作の屋台骨といえる。

 なにしろボラットにとってユダヤ人は殺すべき怪物、障がい者は笑いもの、女性はすべて売春婦。人種宗教性別等々、あらゆる放送禁止用語を連発だ。あまりにネタが危険すぎて、笑っていいものか思わず躊躇してしまうほどだ。

 それにしても、ギャグひとつを笑うときさえ周りを気にしなきゃならないとは! あらゆるタブーにがんじがらめにされた、そんな私たち現代人の姿をこそ、まさにこの映画は皮肉っている。

■作品データ
『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』
2007年5月26日、渋谷シネ・アミューズほか”賛否両論必至”緊急公開決定!!
2006年/アメリカ/カラー/84分/配給:20世紀フォックス映画



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