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俺は、君のためにこそ死ににいく

◆保守おじさん特有の痛さが出まくり (40点)

 ほんの60数年前この国には、ただ敵艦に正確に突っ込むべく飛行訓練を重ねた男たちがいた。現在に生きる男たちは、せいぜい休日前のサービス残業程度の理不尽を我慢すればすむが、彼ら特攻隊員は国を守るために死ねと言われた。国が滅ぶ未曾有の危機を前にしていたとはいえ、そこには想像を絶する心の葛藤もあったろう。

 そんな彼らの最後の数日間を、軍の食堂で実母のように慕われていたある女性を中心に描いた群像劇が「俺は、君のためにこそ死ににいく」(06年、日本)。三選を決めたばかりの石原慎太郎東京都知事が、長年温めた脚本を製作総指揮で映画化した戦争ドラマだ。

 この女性、石原都知事とも交流のあった鳥濱トメさんという方で、生前は「特攻の母」と呼ばれ無数の貴重な証言を遺している。太平洋の藻屑と消えた英霊たちへ鎮魂の思いをこめ、石原知事は彼女のことばに忠実にエピソードを積み上げていく。朝鮮人ながら志願した青年や、「残りの寿命はトメさんにあげる」と散っていった若者など、そのせつなさ、やるせなさは実話ならではの重さで心に響く。

 バリバリのタカ派イメージとはうらはらに石原氏は、「志願=事実上の強制」といった証言や、整備不良で訓練中に犬死にした例など「特攻のダークサイド」も逃げずに描く。中でもあるエースパイロットが、絶対失敗できぬ最初の特攻隊員に任命される場面など、あまりの絶望感に思わず目を覆いたくなる。

 ただ、登場人物が靖国発言を連発するあたりから、そこまで抑えていた(この手の人間模様に不似合いな)ガチガチの愛国的思想が漏れ出てきて邪魔な事この上ない。むろん、それが彼の持ち味ではあるのだが。

 なお、本作でもっとも称えるべきは「坊主頭」を強制されてまで出演した隊員役の若手俳優らのたたずまい。敬礼の速度と揃い具合は日本映画史上最高レベルだ。

 もちろん主役級の窪塚洋介も、自衛隊に体験入隊するなど本格的な役作りが大いに身になっている。「右だ左だというけど、鳥は両方の翼がないと飛べないという思いで、日々生きている」など、コメントは相変わらず意味不明だが、実際にマンションから特攻で飛んでいって生還した男の言葉だと思えば、なんとなく深い意味がありそうな気がしないでもない。

■作品データ
『俺は、君のためにこそ死ににいく』
2007年5月12日、全国東映系にてロードショー
2006年/日本/カラー/配給:東映



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