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それでもボクはやってない

◆すべての男が見るべき大傑作 (98点)

 2006年の暮れに開催された試写会でこれを観たとき、私はとんでもない映画が出てきたな、と思った。なにしろ本作は、その年その日までに私が見た数百本の映画の中で、もっとも面白い一本だったのだ。

 題材は痴漢冤罪。煩悩多き我々男子にとって、これほど身近なテーマはない。映画は満員電車で女子中学生に痴漢に間違えられた若きフリーターを主人公に、日本の司法の問題点、そして無実と無罪の違いについて、シャープに切り込んでいく。

 周防正行監督にとって、『Shall We ダンス?』(96年)以来10年ぶりの新作、また初めての社会派映画となるが、長期にわたる構想と取材は伊達ではなかった。主人公が逮捕、拘留され、取り調べから起訴、裁判となる流れの中には、これまで一般にあまり知られていなかった警察・司法現場の"ありえない"人権無視な現実が暴かれている。漠然と「冤罪は怖い」「黙秘や否認しきれば何とかなる」などと思っている人が見たら、大きなショックを受けること間違いない。

 裁判や刑務所映画は数多く、たいていは経験者(?)によってリアルに再現されるのが常だが、それら"専門映画"を凌駕するほどの、これまで誰もやらなかったディテールへのこだわりが見られるのも楽しい。中でも、鉄格子に囲まれた検察庁の同行室(被疑者ら10名ほどが押し込められる、わずか3畳程度の待合室)における場面の息苦しさは、寸法や色合いまで正確にセットで再現した美術スタッフと監督の、まさに執念の賜物。原作無しのオリジナル脚本で、これほど隅々までこだわった社会派映画は近年一本も無い。

 そのうえ堅苦しさはゼロで、周防作品らしいユーモアにあふれ、娯楽性も高い。2時間半の上映時間はあっという間、尿意も忘れる大傑作で、大満足で帰路につけよう。

 しかしながら、くれぐれも帰りの電車内では両手を上にあげておくのを忘れぬよう。明日はわが身かも知れませんぞ。

■作品データ No.002
『それでもボクはやってない』
2007年1月20日、シャンテシネほかにてロードショー
2007年/日本/カラー/2時間33分/配給:東宝



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